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小学4年生になりすますこと

「小学4年生なりすまし事件」というのがあった。
小学4年生を名乗る人物が選挙関連のウェブサイトを作成。しかし、あまりに小学生とはかけ離れた様子にネット上で批判が集まり、NPO法人を運営する大学生の仕業であることが発覚、謝罪を強いられた。というのが、おおまかな顛末。

ネット上では、小学生への化けっぷりがあまりにお粗末である、弱い立場である小学生を装って意見表明をする姿勢が卑怯であるなどと批判が集まった。

このとき、わたしが思ったのは、そんなことではなく、「この人は本気で小学4年生を演じたつもりだったのだろうか」ということだった。小学生の設定があまりにもいい加減で、すぐにバレるのは容易に予想ができたからだ。

たとえば、河童の扮装をしてテレビのCMに登場する人がいたとする。(主に山瀬まみだ。)
それを見て、「こいつは河童になりすまして、オレたちを騙そうとしている!」と言って怒り出す人がいたら、頭がおかしいと思う。
あるいは、20代の女優がドラマで女子高生を演じているのを見て、「そろそろ制服は無理がある」という意見はあっていいが、「年齢詐称だ!」と言い出したら、やはり頭がおかしい。

CMの河童が本物の河童でないことを見破った自分の賢さを誇ろうとしているのならば、頭がおかしいだけでなく、愚かでもある。
わたしは偽小学生を大声で糾弾する人々を、そうした違和感を持ちつつ見ていたのだが、作成者の大学生は平謝りで幕引きを図ったため、実際のところ、「なりすまし」だったのか「河童的扮装」だったのか分からずじまいになってしまった。あまりに騒ぎが大きくなりすぎたため、平謝りしたのは賢明な判断だったと思う。いまさら、「わかりボケでした」と言っても火に油を注ぐだけだからだ。
しかし、もしも作成者が本気でなりすますつもりだったとしたら、恐ろしい世の中だと思う。

言ったそばからバレる嘘には罪が無い。そのつもりで、わざとバレる嘘を挟みこむのも対話の技術ではないのか。
「小学生という設定になっていますが、本当は中に大人が入ってます。そこらへんはあらかじめ了解の上、お楽しみください」という場合は、どうしたら分かってもらえるのだろうか。その旨をテロップで流さなければならないのだろうか。


それはそれとして、茂木健一郎は「意欲のある若者を叩きすぎるのはよくない」、津田大介は「小学生を名乗らず、二十歳の若者として率直に訴えるべきだった」という旨のことを言っていた。
どうやら現在の日本には「若者枠」というものがあるらしい。目立った活動をする若者を「若手論客」「若者代表」「未来の(著名な人物の名前が入る)」「天才(高校生などが入る)」といってメディアが積極的に取り上げる。
確かに日本は年功序列型の文化が根強くあり、少子高齢化で高齢者がますます元気でもあり、世代間の意識のギャップも非常に大きくなってもいるので、意識的に若者の声を取り上げる必要性はあるのだろう。
一方で、「若者を代表する意見を持っていない」「年長者に比べて見識が足りない」という意見もある。「若者」というだけで下駄を履かせてもらっているということだろう。

「天才○○」とメディアに注目されて順調に成長した例は少ない。その意味で、「卓球の愛ちゃん」は立派だが、他はそれほど思いつかない。
高校野球で日本一になっても、プロ野球では活躍できない選手もいる。サッカーでもそうで、17歳以下の世界大会で活躍しても、プロの世界に壁にぶち当たる選手は数多い。
反対にスティーブ・ジョブスもビル・ゲイツも「若者代表」として登場したわけではなかった。むしろ、彼らのような革新的な行動を取る若者が年長の有力者から好意的に受け止められることは少ないだろう。

「若者枠」で活躍する人々も、いずれ若くなくなるときが来る。年齢制限のない「フル代表」で通用する力を備えているかが問われる時が来るのだ。

津田の言う「二十歳の若者として」というやり方は「若者枠」の中に籠って戦うことを意味する。つまり、若者であることに甘えるということだ。しかし、そうして成功体験を積み上げて行くという戦略も確かにある。一方、「若者」である間だけ持ち上げられて、使い捨てにされる危険もある。
小学生を名乗ることで、当初、彼らの正体は誰にも分からず、「若者枠」というバイアスを外した彼らの実力に対する正当な評価を受けることになった。たとえ、それが度を超して厳しい洗礼だったとしても、それを得たことは大きな成果だ。
もしも、彼らが「若者」として見られることに満足せず、その枠から飛び出すために「小学生」を名乗ったのならば、たとえそれが酷い失敗であったとしても、その勇気だけは讃えるべきなのだろう。
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