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NBAにみる農業的ビジネスと金融的ビジネス [NBA]

今季のNBAは西高東低の傾向に拍車がかかっている。東が勝率5割超のチームがプレイオフ進出枠8チームに満たないのに対して、西は7割超えが7チーム、11チームが5割ラインを超えている。

こうした傾向は10年以上にわたってみられている。理由のひとつとしては、イリーガルディフェンス・ルールの撤廃後の戦術の国際ルール化への対応、欧州を中心とした非北米型選手の受入れ態度の違いに求めることができるだろう。
伝統的に、寒い東海岸は90年代のピストンズ、ブルズ、ニックスに代表されるフィジカルなディフェンスを好み、温暖な西海岸はレイカーズやサンズに代表されるアップテンポなハイスコア・ゲームを好む傾向にある。(気候とフランチャイズの住民気質、チームの戦術の関連性は北米の他のスポーツでもみられる。イタリアとフェニックスで成功したスタイルでニックスをプレイオフに導いたダントーニが翌シーズンの低迷で早々に解任されたのは、やはりそのスタイルがニューヨーカーに支持されなかったからだろう。)
そうした下地がここ10年の戦術の変化への順応の速さに影響していると推測することはできる。
しかし、人材の流動性が高いNBAで10年以上こうした変化への対応が放置されているとは考えにくく、さらに東西格差が拡大する傾向にあることを説明するには別の理由を考えてみる必要がある。

ここで考えてみたいのは、金融型経営モデルと農業型経営モデルの違いについてだ。
昨年優勝したサンアントニオ・スパーズは17年連続でプレイオフに進出し、その間、5度の優勝を果たしている。その間、将来の殿堂入りが間違いないビッグマン、ティム・ダンカンを擁していることは間違いないアドバンテージであるし、北米以外で育った選手が圧倒的に多いことも特徴ではある。
しかし、ここでとりあげたいのはこの間、グレッグ・ポポビッチがヘッドコーチを務めているという点である。ポポビッチは今季で19シーズン目を迎える異例の長期政権だ。もちろん、ポポビッチの優れた手腕も特筆すべきだが、それ以上にポポビッチを解任せずに継続的に指揮を任せた経営陣と(圧力団体としての)ファンの判断に注目したい。
たしかにポポビッチの業績を見れば解任する理由がないように見えるかもしれないが、プレイオフに進出しても解任されるヘッドコーチが多くいる中で、やはりこれは特別なケースといえる。

西地区ではユタ・ジャズのヘッドコーチを23シーズン続けたジェリー・スローン、ヘッドコーチは交代しながらも80年代から21季連続してプレイオフに進出したポートランド・トレイルブレイザーズなど長期安定型の事例が多くある。

一方、東地区のチームは新陳代謝のスピードを速くしようとする傾向が高い。たとえば、ニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツは、2002、03と連続してファイナルに進出したが、翌年ファイナル進出に失敗すると若手スターのケニオン・マーティンを放出しチーム改造を図った。しかし、成績は上向かず低迷期に入っていく。

NBAでは、中位に安定して留まるのがもっとも悪いとされてきた。成績の悪いチームは、上位ドラフト指名権を獲得したり、トレードやフリーエージェントで有力な選手を獲得するための大改造も行いやすい。安定を求めて、優勝できないまま、中心選手が高齢化して成績をずるずると落としていくのがもっとも悪い。したがって、上を目指して変化を求めるか、それができないなら一度チームを解体して新しい体制で優勝を目指すのがよいと考えられてきた。
しかし、近年はチームを解体して再建期に入っても、そこからなかなか浮上できないチームが多くなってきた。

東地区のチームには、現有戦力への見切りが早く、早々に大規模な解体を行って再建期に入るチームが多い。これを金融型モデルと呼びたい。短い期間での利益を最大化するために、早いタイミングで大きな変化を求めるやり方だ。
東地区の球団は都会的でフランチャイズ人口が多く球団の資産価値も大きいため、大企業や投資家がグループを作ってオーナーとなることが多い。中には純粋に投資の対象としてみているオーナーもいる。そのため、経営方針も投資的観点での合理性を求めやすくなる。

一方、西地区のチームは比較的、継続性を求める傾向がある。これを金融的モデルに対して農業的モデルと呼びたい。
背景には、大富豪が球団株式の大半を保有して経営判断に強い影響力を持っていることがあるだろう。(比較的、フランチャイズ規模の小さい西地区の球団なら大富豪が個人で所有しやすい。東地区のチームはそれより高価なので、個人では手が届きにくくなるのだろう。)
大富豪のオーナーの場合は、投資的合理性に基づく判断に拒否権を発動することができる。
短期的な利益を最大化する論理は投資的な理論で合理的(機械的)に求めることができるが、長期的な利益については困難になる。それは、リスク(将来に対する不透明性)が大きくなるからだ。
つまり、強い個人が経営に大きな影響力を持っている方が、リスクをとる判断ができるので、長期的な視点での経営がしやすくなる。
大富豪の個人所有でなくても、地元の企業や富裕層がオーナーグループを形成している場合も、それに近い状況になる。
それに対して、投資家的観点での経営の場合、不確実性の低い短期的な経営判断になりやすい。しかし、その結果として「大金を払ってプレイオフ1回戦止まりより、大負けしても総年俸を低く抑えれば損はしない」という判断に陥ってしまうことが多い。

最近は、一般企業でも長期的観点で経営するために株式を非上場化する場合がある。
個人商店から発展した親族経営企業の場合、企業統治がうまくいかず、乱脈経営、企業の私物化に陥る危険もある。しかし、一方で株式を上場して不特定多数が株式を所有する場合、短期的な成果を継続して出して行くこと、特に配当や株価上昇という形での成果が求められ、長期的で成果が不透明な事業や直接、利益に結びつかない事業が行いにくくなる。

現在のNBAは農業化の傾向があるのだろう。農業の中でもオーガニックに近い農業。つまり、畑の土を育てるように複数年にまたがる長期的なチー作りが重視される傾向だ。
一方、近年のビジネスは金融とネットの発達によって、どんどんスピードが速くなっている。こうしたスピード感の中で成果をあげるのが優秀な経営者だが、それはオーガニック・ファームの時間感覚とはミスマッチだ。
つまり、一般企業で優れた業績をあげる経営者ほど、NBA球団の経営では失敗する傾向にあるのかもしれない。そして、そのことが大都市でそうした人材には事欠かない東地区のチームが低迷する原因であるかもしれない。
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